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岩瀬副知事が辞任

今日は午前中に、議会運営委員会で本会議最終日の進め方を決めていたのですが・・・午後になって岩瀬副知事が辞任するとの連絡が入りました。

「はあ?そんなのダメだ!絶対に止めないと!」と思い、形相を変えて知事公室に飛び込んだのですが、職員に制止されてしまいました。そこで返す刀で副知事 室に乗り込んで、岩瀬副知事をつかまえて、辞任を取り消すように説得したのですが・・・残念ながら、私の力では止められませんでした。

いきなりこの部分を読んだらわけがわからないと思いますので、今議会における副知事人事の審議の流れを簡単に説明すると・・・
1.知事はかねてから、地震・津波・原発対策や新東名周辺開発など県政の重要課題が山積しているので、副知事は3人にしたいと言っていた。ちなみに条例上は定数は3人。
2.しかし、自民党系の会派、自民改革会議は、行革を進める観点から、3人にすると費用が3000万円も余計にかかること、さらに昨年末に大村副知事を国 に帰した際に「一人でもやれる」と知事が発言したことから、いきなり3人は認められない。2人なら認めると牽制していた。
3.そこに知事が、「根回しや取引はしない」として、自民改革会議との事前協議もなく2人目、3人目の副知事案を提案。自民改革会議は反発。
4.委員会審議の結果、所管委員会では自民改革会議が過半数割れしているので、民主系・公明党・無所属の賛成多数で可決。
5.本会議では自民改革会議が過半数を占めているため、否決される見通し。その際自民改革会議は、「2人の副知事に優劣はつけられない。否決されるのを分 かっていながらあえて提案した知事への再考を促す意味で、2人とも否決する。出直すべきだ。」としていたので、2人とも否決されることが見込まれていた。
6.本会議最終日、つまり採決の日を翌日に控えた今日、突然現職の岩瀬副知事が辞任。副知事が空席になったので、自民改革会議は2人までなら認めると言っているので、副知事人事案が可決される環境が整ったことになった。
というわけです。

私は岩瀬副知事にあって、
「チーム川勝として議案を出したのだから、このまま一丸となって進むしかない。土壇場になって協議を求めてもダメだ。協議の申し出は、採決を見てから打つ のが筋だ。途中でやめたり、これまでの主張を変更したら、いままで必死で支えてきた民主や公明、無所属の議員たちははしごを外されることになる。それまで は苦しいだろうが、辞任してはダメだ。」
と言ったのですが、
「先生、これまでずっと引き止めてくれたのはありがたいが、私の後輩が目の前で否決されるのを見てられない。3月や4月に臨時会を開いても、このままでは事態を打開できない。私が辞めるしかない。」
と返されたので、
「いや、後輩の立場にもなってもらいたい。岩瀬さんが腹を切った後の椅子に、大須賀さんが座れるわけがないだろう。県庁の組織を壊しちゃいけない。表に出 ていないが、自民改革会議の幹部だって、妥協案を探ろうとしてくれているんだ。もう少しの我慢だ。5月までにはきっと打開できる。」
と言ったのですが、
「二人の後輩は、そんなにやわじゃないですよ。県庁の組織はしっかりしています。私の事を思うなら、先輩面させてください。議案を通してもらうことが、今 の私にとっては一番ありがたいことなんです。知事はよく私を2年も使ってくれました。与えられた立場でできることを、全うさせてください。」
と言われました。私もそれ以上は言葉を継げず、説得を断念しました。

聞くところによると、自民改革会議の幹部も、「岩瀬の思いはよくわかった。そこまで決意しての行動なら、犬死にさせるわけにはいかない。」という武士の情けで、辞任を受け入れ、議案に賛成すると伺っています。

それにしても・・・予想していた中で最悪の結果です。わたしはかねてから、人事を政局にしてはならないと言い続けてきました。かつて国会においても、サブ プライムローンの問題が拡大している中、当時野党であった民主党が日銀の総裁人事を政局に絡めて空転させ、日本の経済に大きなダメージを与えたことがあり ました。これは、民主党出身の故・西岡参議院議長が、やってはならないことだったと深く反省しておられました。

同じことが静岡県議会でもおこったのです。結果として、岩瀬副知事を辞任させると言う、知事も、どの議員も求めていないような結論に行きつくことになりま した。結果として、根回しも取引もしないと言っていた知事は、副知事の首を取引に出したと言うことになってしまいました。失敗も犯罪も犯していない部下の 首を差し出すと言うのは、組織の運営上、絶対にやってはならないことです。

なぜこんなことになってしまったのか・・・知事の無策を責めようと思った瞬間もあるのですが・・・私も知事を支える立場の議員として無力であった、働きが 不十分であったと言わざるを得ません。おそらく知事も孤独だったのでしょう。勢いよく進んではみたものの、打開策が見えず、支援する立場の議員の動きも見 えず、疲れもたまっているところに岩瀬副知事が辞任したいと言ってきて・・・とっさに止められなかったのかもしれません。

ですから原因は・・・と言われれば・・・これは、経済学のゲーム理論でいう「非協力ゲーム」を進めてしまった事としか言えません。非協力ゲームは、「囚人 のジレンマ」といえばピンと来ると思いますが、お互いが非協力状態のままゲームというか、やり取りを進めると、結果としてお互いが望んでいない結果で均衡 してしまうと言うことです。この均衡状態をナッシュ均衡と言います。

知事は経済学者で、このことを重々承知しているにもかかわらず、非協力ゲームを進めてしまい、ナッシュ均衡の罠に落ちたと言う事です。もちろんこれは、自民改革会議も同じ事です。決して望んでいた結論ではなく、自民改革会議も大きなダメージを受けました。

これからは、この非協力ゲームを、協力ゲームに変えてゆかなければなりません。ナッシュ均衡に陥るのではなく、パレート最適と呼ばれるWIN-WINの状態を目指してゆかなければなりません。

そのために、決定的に欠けていたのは、対話です。根回しと言うと、なにかイヤらしく聞こえますが、それは対話と同義語です。対話と言えば、さわやかで堂々としたものに聞こえます。

今回の事件の教訓を生かすとすれば、これからは議会との対話、議員との対話、県民との対話、経済界との対話を重視した県政を進めてゆくことに尽きると、私も反省しました。

あす、本会議で採決があります。私は討論に立つことになっています。今日書いたような反省に立ち、しっかりと討論して、一歩成長する議会を創り上げてゆきたいと思っています。