自民党は解党覚悟で国民と向き合え
月間日本(10月号)にインタビューが掲載されました。
『ガソリンの値段を議論するだけでいいのか』
聞き手: 石破総理が辞任しました。大岡さんは参院選後に開催された自民党の両院議員懇談会で、「直ちに辞任をすることが責任の取り方ではない。衆参両方で過半数を割った中で、法案や予算案を通せる態勢を死に物狂いでつくるのが総裁の責任だ。」と発言しましたが、この間の政治の動きをどう見ていますか。
大 岡: 石破さんは選挙に2回負けた、3回負けた、と言われていますが、私は昨年の衆院選と今年の参院選は「大坂冬の陣・夏の陣」のように一連の戦いだと捉えています。そしてその敗因は、石破さんだけではないと。二つの選挙の間には9か月ほど時間がありましたが、その間に自民党は「ガソリンの値段がどうのこうの」「お米の値段が高いとか安いとか」「国民に2万円を給付する」といった、言わば小さい議論ばかりしていました。
もちろんガソリンや米の値段も大切な問題です。しかし、国民は「ガソリンと米を値下げする政党こそ、政権を担うにふさわしい」と考えているのでしょうか。「給付金を1円でも多く配る政党に、政治を任せたい」と思っているのでしょうか。国会議員が600人も700人も集まって、朝から晩までガソリンの値段を議論することを、国民が期待しているとは思いません。世界の動きを見ずに、国内の小さな問題ばかりを議論していていいのでしょうか。
世界はいま大きく揺れています。日本は米国にぶらさがっていれば済む時代は、終わりつつあります。イギリスやヨーロッパもそうですし、特に米国の隣国であるカナダは、我々以上に米国依存の深い反省とともに、強い危機感を持っています。
世界情勢が安定しているなら、国内の問題だけに取り組んでいてもいいかもしれません。しかし、この先世界の構造の変化が早まる中で、国内のみを見ていては、さらにリスクを大きくするかもしれないし、大切なチャンスを見失うかもしれない。日本はこれまで通り米国と組むのか、西側だけれどもカナダやイギリス、ヨーロッパ各国との連携を深めるのか、さすがに中国・ロシアと同盟を組むという人はいないでしょうが、もっとアジアやインド、中東、アフリカと親交を深めていくべきではないかとか、世界情勢を見ながら日本の取るべき進路について、様々な議論があってしかるべきです。
ところが、国会や自民党内では、そういった議論はほとんどありません。大きなグランドデザインの議論こそ、本来の国会議員の仕事なのに。本当に危機的な状況です。
こうしたことは、自民党はもちろんのこと、他の政党にも真剣に考えていただきたいことです。国内のことはしょせん、日本の中の分配の話、取り分の話ですが、世界の動きで行動を間違えると、日本全体が大きな利益を失うし、日本全体のリスクを高めることにつながります。
そういう意味では、石破総理が掲げた日米地位協定の改定は、世界の動きを見た、一つの重要な問題提起だったのかもしれません。まず、地位協定は石破総理が言うほど簡単な問題ではありません。米国は日本以外の国とも地位協定を結んでおり、日米地位協定の改定は他の国にも影響を与え、米国の同盟が不安定になる可能性があります。
ただ、石破総理が発言した「米国にも自衛隊の基地を置くべき」という提言は、無理だ無理だと笑い飛ばすべきではないと思います。日本国内には自衛隊が訓練する場所が十分にありませんが、米国には広大な土地があります。また、トランプ大統領はアラスカに関心を持っており、アラスカには開発できない土地が山ほどあります。その使えない部分を、日本の自衛隊の訓練場に貸してくれと言えば、応じる可能性があります。日本からすれば、寒かろうと何だろうと、自由に訓練できればよい。同盟国である日本の自衛隊を北極地域に張り付けておくことは、米国の安全保障にとってもプラスになるはずです。
自衛隊がアラスカに滞在することになれば、その周りにだれも住んでいないとしても、何かトラブルが起こったときにどう解決するかを定める「米日の地位協定」が必要になります。これで「日米地位協定」と「米日地位協定」をお互いに結ぶことになり、日米関係は一歩対等に近づくはずです。
石破総理は地位協定という大きなテーマについて問題提起はされましたが、実行に移せずに終わりました。この問題提起を受け、新しい総裁のもとで前進させたいと思います。
『国民に呼びかけることこそ政治家の役割』
聞き手: 自民党は今年で結党70周年を迎えますが、自民党議員の意識と国民の意識はどんどん乖離しています。自民党は国民に対して、日本の国際的な立ち位置や日本の進むべき方向についてもっときちんと説明し、国民と一体となって政治を進めるべきです。
大 岡: 国民への呼びかけは政治家の本来の仕事です。どんなに大きな企業の社長でも、国の方向性について国民に呼びかけるのは変ですよね。これは政治家にしかできないことです。
しかし、近年の自民党は国民への説明が不足しています。たとえば、党の部会で経済政策や税について議論している際、少しでも国民負担が増えるような提案があるとそんなことをすれば世論が持たない」といった声がすぐにあがります。幹部でも平気でそんなことを言う。
しかし、世論を「持たせる」のが、あなたの仕事ですよ、と思います。最初から「持つ」とか「持たない」とか、自分たちは説明をしないことを前提に議論しているんですね。これはダメです。自民党は国民に呼びかける機能を取り戻さなければなりません。
また、マスコミの論調を含めて、政治姿勢を測定する軸が一本しかありません。
「右」とか「左」とかの、横軸、つまりⅩ軸だけなんですね。しかし、民意がここまで多様化しているのだから、立体的とまでは言いませんが、せめてY軸をつくり、二次元で、少し幅の広い議論をしなければなりません。そのマトリクスの中で、自民党は広く安定した立ち位置を定めてゆきたいと思います。
聞き手: 自民党と世論が乖離してしまうのは、選挙制度も関係していると思います。現行の選挙制度は死票が多く、民意を十分に反映できません。
大 岡: 私はこれまで5度、国政選挙を戦いました。昨年は小選挙区で落選し、比例復活で議席をいただきました。1回目の選挙なんて、30%台で当選しています。私に限らず、得票率が50%を超えている議員は多くないと思います。つまり、国民の半分以上の票が死票になっているんですね。
現行制度のまま死票を減らすとすれば、たとえばフランスの選挙のように、1度投票を行ったあと、1週間後に上位2名で決選投票を行うという方法があります。電子投票を進めればそれほど難しいことではありません。
決選投票で勝つにはより幅広い声を聞かなければならないので、極端な主張を掲げる候補者は当選できず、落ち着いた民意が反映されます。この制度なら二大政党になりやすく、政権交代も起きやすい。しかも死票は半分以下になります。
もう一つの方法は、古川禎久さんたちが中心になって進めている中選挙区で複数の候補に投票する制度です。これは小選挙区制よりも多様な民意を反映できます。この制度では必然的に多党化し、常に連立によって政権を運営していくことになります。死票はさらに減らすことができるでしょう。
どちらのほうが日本に適しているかはわかりません。しかし、少なくとも現行制度は問題がたくさん出てきています。小選挙区決選投票制や中選挙区連記制などのメリット・デメリットをそれぞれ国民に示し、結論を出していく時期を迎えています。
『むき出しの思いを語るべき』
聞き手: これから自民党総裁選が行われます。何が争点になるでしょうか。
大 岡: やはり当面の課題、つまり自民党をどうやって立て直すか、少数与党として今後の国会運営をどう行っていくかが争点になるでしょう。また、最近のマスコミの論調では、小さな議論、つまりガソリンや米の値段、給付金なども争点になると思います。
しかし、これまで述べてきたように、世界が大きく揺れているときに日本は何をすべきかという、日本の方向性に関する議論も必要です。外交や安全保障の方針、財政再建や社会保障ですね。また各政策については、現実的な議論が必要です。
たとえば外国人労働者問題。いま生産拠点を国内に戻せ、と言っていますが、うまくいっていません。いくら日本に工場をつくっても、そこで働く日本人がいないからです。だから工場を戻すなら、労働者も一緒に来てもらわなければならない。「外国人労働者は来るな。工場だけ戻ってこい。」は通用しないのです。
私自身は民営化のあり方、つまり国の関与のあり方にも関心を持っています。たとえばJR。2016年にJ R九州が上場しましたが、その際、中国資本に株を買収されたらどうするかということが議論されました。確か当時、4000~5000億円あればJR九州を買収し支配できたはずです。中国の資本力からすれば難しいことではありません。特に九州の人は、それでいいんでしょうか?
いまの時代、NTTや郵政も含めて、国の基幹的な事業をしている企業については、外国の影響力を排除し、情報の漏洩を防ぐためにも、国が株式を一部保有することが絶対に必要です。これは今後、党内や国会でも議論していかなければならないと思っています。
聞き手: 現時点で総裁選への出馬が取り沙汰されているの は、茂木敏充氏や林芳正氏、小泉進次郎氏、高市早苗 氏、小林鷹之氏などです。しかし、みんな1年前の総裁選に出馬した人たちです。これでは国民の期待は高まらないと思います。
大 岡: 確かに……。新しい候補にも出てもらいたいですよね。同時に、すでに出た人にも、新たにやるべきことを、自分の言葉で語ってもらいたいですね。
石破総理の辞任会見は、正直言って残念でした。この年間、石破政権がやってきたことを各省庁から集めてきて、履歴書のようにしてだらだら読んでいるだけ。しかも辞任の理由は事実とは異なる話でした。自己正当化と強がりは、役所がいつもやることですが、そんな官僚がつくった「辞世の句」を読んで何か意味があるのでしょうか。
石破さんは総理として、どんな苦労をしたのか、何を悩んだのか。そして最後は、勝負に出ようとしたがやり抜けなかった。総裁選前倒しがほぼ確実になったことを受けて、負けを認めて退陣を決めた。何かそういう、むき出しの本音、負けを認めて本当のことを語ったほうが、男としてカッコ良かったと思います。これだけは次に託したい、という思いも、多くの人に伝わったのではないでしょうか。
新しく総裁になる人は、衆参両院で少数与党になっているので、石破総理以上に厳しい政権運営を求められます。周りを敵に囲まれた中で大将を譲られるようなものです。
自民党は参院選の総括文書に「解党的出直しに取り組む」と明記しました。本当に解党する覚悟で、どんな新しい旗を立てて国民に呼びかけられるのか、それが問われています。
(9月8日 聞き手・構成 中村友哉)