台湾有事発言について 冷静で正しい報道を望む
週が明けて国会で仕事をしておりますが、その後の日本における報道は、日本国民だけではなく、中国国民にも誤解を与えるのではないかと懸念するので、正しい理解と対応のために書いておきたいと思います。
メディアは、「中国と台湾の間に武力衝突が起きた時に自衛隊は参戦すべきか?」「台湾有事において集団的自衛権を行使することに賛成か反対か?」という趣旨のアンケートとともに国民の反応を報道し、「戦争に巻き込まれていいのか」という批判を紹介しています。 しかしここで、ウソとは言い切れないし、意図的かどうかもわからないのですが、メディアは「一つ、もっとも重要なことを報道していない」ので、話が全く別のものになっています。
それは、高市総理はあの日明確に、「台湾の海上封鎖を解こうとして米軍が動き、その米軍が攻撃された時」と前提を示しています。言い換えれば、「親友が自分の目の前で襲われているときに、①ケンカはしない②ケンカの道具は買わない、と約束している自分は助けに行くのかどうか。」と問われ、それに対して高市総理は「助けに行く可能性がある」と答えているのです。
「可能性がある」を撤回しろという意見がありますが、「可能性がない」とすれば、日米同盟はただちに崩壊します。 日本近海、つまり手が届くところで親友を見殺しにするということで本当にいいのかどうか。 「戦略的あいまい」を維持するべきなのにイキリすぎだ、という意見もあります。しかし、「戦略的あいまい」は日米ともに正式に国家として認めていない「台湾問題」について行われてきたものであって、この日の総理の発言をよく見てもらえばわかるとおり、これは台湾問題としてではなく日米同盟の問題として答えています。
日米同盟があいまいであったら、それは同盟の意味や価値を疑われることになります。 日々起きる様々な問題について、メディアが反射神経的に報道することは、その特性上あり得ることです。速報を打ったあと確認して違うところがあれば訂正すればよい。しかし、こうした外交問題など正確な言い回しが必要な問題について、分析する時間があるのに正確ではない報道を続けることは、国益を損なうだけではなく、国民を危機に陥れる可能性があります。この点は本当に肝に銘じてもらいたい。戦前のメディアの反省は風化してしまったのでしょうか。 それから、中国側からどう見えるか、も、メディアの皆さんには想像してもらいたい。中国では、メディアは政治の支配下にあります。日本のように、言論の自由があり、メディアが独立していて、政府は監督していないことが、基本的感覚として理解されていない可能性があります。したがって、中国人から見れば、日本のメディアが「台湾有事に際して日本は参戦する」と報道すると、それを国の発表として強烈に反発するのは当然です。こうした報道は、戦争の危機など極端に至らないまでも、今後しばらくの間中国において日本人が襲われるリスクを高めるので、そうしたことも想像して報道してもらいたいと思います。
これからの展開は予想ができません。いま両国ともにカードをもっています。だからこそ、メディアにも、国民にも、冷静になって対応していただきたい。 日本から金井局長が訪中したとのこと。日本側の迅速な対応は正解です。外交にはどうしても「メンツ」がちらつきますが、囚われてはいけません。日本の立場や考え方は変わっていない、と説明するとのことですが、それは最初に書いたとおり、全体を確認すれば明らかです。アメリカを攻撃したら日米同盟に基づいて日本が出てくる可能性があることは、中国はよく知っています。逆もしかりで、中国には軍事同盟の相手はいませんが、義理堅い中国の友好国に何かすると反撃される可能性があることは私たちも知っています。
日本には、暴言に近い発言をした総領事に対し、ペルソナノングラータを発動するかどうか、というカードがあります。反射的に行ったと思われる発言は既に削除されています。また、仮に今のような世論の中、ペルソナノングラータによって中国に帰国した場合、彼は英雄として中国国民に迎えられる可能性があります。政治はいろいろな角度から見て考えなければなりません。 事態をエスカレートさせることは、両国にとって大損失です。80年前に敗戦して日本は全てを失いましたし、ロシアはウクライナで大国から陥落しました。一方で、両国のメディアやSNSによって火をつけられてしまった国民を冷静にさせるのは簡単ではありません。ここは、両国と両国民の知恵の見せ所です。なんとか事態が収まるように、皆さんのご理解とご協力をお願いしたいと思います。こうしたときに広く国民の力、言論の力を見せられるかどうかは、私たち日本の民主主義国家としての力量が問われる場面です。